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映画を見ながら、このインテリアはいいな、まねしてみたいなと思ったりすることはありませんか。
そこで本コラムでは、皆さんもきっと好きに違いない映画を題材にしながら、インテリアのことについて書いてみます。 |
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僕はあんがい映画を見ていてそんな気持ちになることがあります(これって、ただのミーハー?)。
いちおう建築の教師だから専門雑誌を見るわけですが、見ていてなるほどこうすると楽しいだろうな、まねしてみようかなと思うことはめったにないのです。専門誌では、そのほとんどが生活感をできるだけ消して、建築だけ、住宅だけを見せようとしていることが、僕自身の日常生活空間の感覚とは共振しないせいかもしれません(急いで付け加えると、住宅を考えるための材料としては大いに役立つことがあります)。
ともあれ、映画からヒントを得ることがけっこうあるのです。そしてこういう時こそDVDが役に立つ。音楽CDとは違って何回も繰り返してみることは少ないけれど、全部を通してみるのではなくて、気に入った場面や気になるシーンを何度も再生して楽しんだり、細部を確認することができるようになったのですから。 |
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「かもめ食堂」
5,040円(税込)
販売元: バップ |
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最近は日本映画が元気だと言われているようですが、皆さんどんなものをどんな風に観ているのかしらん。白状すると、僕はなぜか日本映画を見ることがほとんど無いのですが、いちばん最後に見たのがかもめ食堂(荻本直子監督、2005)。誰かに勧められるか何かして、DVDを借りてきて見ました。
で、見終わったら、欲しくなりました、DVD。
一時は懐の許す限り買うようにしていたのですが、今はほとんどレンタルで済ませるようになった。レーザーディスクやビデオテープに比べると格段にコンパクトになったとはいえ場所をとるし、だいいち思ったほどには繰り返して見ないのですね。それでも欲しくなったのは、やっぱりストーリーとは別に、そこに出てくる場面、ことにヘルシンキの街のオープン・マーケット(いいなあ。外国の都市にはどういうわけかこうした市場が多いようです)、そして小林聡美が演じる主人公サチエの食堂や自宅のインテリアに心惹かれたからなんですね。写真集をぱらぱらとめくるように、そんな場面を時々つまみ見したいと思ったのです。 |
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かもめ食堂はあんまり映画らしくない。少なくとも最近のハリウッド映画なんかと比べると映画とは言えないのではないかと思うくらいです。ドラマチックな展開や息もつかせぬサスペンスといった派手な仕掛けとは無縁です。それにリアリティもほとんどない。
サチエがどういうわけか北欧はフィンランドの街で経営するちいさな日本食堂が舞台、それもおにぎりを主役にするというものです(ね、ありそうにない話でしょう)。そこでサチエが出会った日本人やフィンランド人たちの、いくらかは事件といえるような出来事をはさみながら、だれも客のいない場面からはじまってやがて満席となったシーンで終わるまでを淡々と描いています(やっぱり、あんまり見たくなるような話でもないでしょう、あなたがすこし変わったヒトじゃないかぎりはね)。 |
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ひとり所在なげに食器を磨いているサチエのクローズアップから、ゆっくりと場面が変わって、誰もお客のいない店のテーブルの向こう側の入り口の脇の大きな窓の窓台(もしかしたら、棚なのかな)に丸く刈り込まれた小さな木の植木鉢が整列しているのがいいなと思った(見直したら、外から見た感じもいいです。こんなことができるのもDVDのおかげ)。さっそく採り入れようとしたのですが小さな植木が見当たらず、結局手近にあった小物(ま、お土産に買ってきたり、もらったりしたものですね)を並べることになりました。それでも、案外悪くないと思ってちょっと「にやり」としたりするわけです。
一方、サチエの自宅も負けず劣らずさっぱりとしたインテリアでした。食堂の窓台にも合気道の練習をするリビングルームにも植木鉢が置かれていましたが(こちらは葉物)、ものがほとんど無くて、住まいとしてはちょっとシンプルすぎるような気もしたけれど、床置きやスタンドによる部分照明のインテリアはいかにも合気道の練習を毎晩欠かさない住まい手の家にふさわしく静謐な空間となっています(サチエさんはなんと武道家の娘でした)。
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かもめ食堂の魅力はなんといっても、こうした映画的な日常生活や空間の場面の中庸的な好ましさの力が大きいのではないかと思います。食堂の自然光にあふれた明るい空間やそこに置かれた白木のテーブルと椅子やその上に載るシンプルな食器の醸し出す雰囲気は、さっぱりとした清々しい魅力にあふれていました。
家具も食器ももちろんフィンランドのもの。器はフィンランドの代表的なメーカーのひとつイッタラ社製、ガラスの食器で有名です。家具はこれもフィンランドの世界的な建築家アルヴァ・アアルトの手になるものです(そういえば、自邸の部屋と庭との視覚的な連続性を強めるために窓辺に鉢植えを飾る工夫をしたのもアアルト夫婦でした。また、ふたりはイッタラ社にもデザインを提供しています)。アアルトの名前はもうご存知かも知れませんね。少し前に流行ったミッド・センチュリー(文字通り20世紀の中期ということで、モダンデザインの黄金期のひとつです)の代表的な建築家・家具デザイナー、おまけに映画作家でもあったチャールズ&レイ・イームズ夫妻よりは10歳ほど上の人です。
映画の中で使われている家具がそうであるように、北欧のデザインらしくモダンでありながら木の特性を生かしたやわらかなかたちが特徴です。このため、突出した斬新さは見えにくいけれど、すぐに見飽きて古びてしまうことのない強さがあって、いずれも日本でも人気があるようです。 |
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ともあれ、僕のまわりには、この「かもめ食堂」のインテリアが好きという人が何人かいます。そのうちのひとりで、家具や照明の使い方だけでなく、キッチンクロスのかけかた、カーテン、テーブルの上の器の並べられかたや料理の盛り付けかたまでを含めた全体の雰囲気が大好きという彼女は、そのままではあまりにもものがなさ過ぎて現実的ではないと思いながらも、できる範囲でその感じを採り入れるようにしているらしい。自分が食堂経営者でなくても、武道をたしなむものでなくても、いいなと思う生活空間がそこにあったというわけです。
ところで、誤解を恐れずに言ってしまえば、住まい手にとっての住宅は、ほとんどインテリアであるといってよい。特に都市における住宅、マンションにおいてはそうです。もちろん、プランや外観が重要じゃないわけではないけれど、きちんとした会社の供給するマンションのプランはたいていの人が暮らす分には不都合はないほどよく考えられたものが多いし、いくらかは変更の要求にも応じてくれます。また、リフォームもできる。しかし、外観はほとんど注文のつけようがありません。さらに言うなら、外観で個性を主張しすぎるとはた迷惑だし、それに中に入ったら見えません。個性はインテリアデザインで表すというわけです。
自分の好きなものでつくりだしたインテリアの中で暮らすことはきっと何より気分のいいものに違いない。 |
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| こんなことを書いているうちに、気に入った映画のインテリアと同じようなしつらえの空間で暮らすために、引っ越したくなってきました。これから家をさがそうという人がうらやましい。もしかしたら、僕も・・・。まずは要らないものを捨てるとしようか(うーむ)。 |
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プロフィール
藤本憲太郎
関東学院大学人間環境学部教授
専門は居住環境のデザイン。若年者や高齢者を中心とした単身者の居住環境や映画文学にあらわれる居住環境を中心にひろく人々を取り巻くデザインについて研究。住宅の設計やインテリアデザインなどの実務も行う。
【著書】
「目で見る[住生活]と住まいのデザイン」(共著 建帛社)、「いす・100のかたち」(共訳 読売新聞大阪本社)、「チャールズ&レイ・イームズ」(共訳 読売新聞大阪本社)等 |
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