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スペシャリスト・インタビュー 第2回
株式会社スペース・キー・プラン
代表 
水嶋和幸 氏 vol.1
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 これからマンションを購入しようという人はいったいどんなインテリアを求めているのだろうと考えていたら(何しろ、今回でおしまいですから)、最近見た映画の中にフラット・アイアン・ビル − ニューヨークのマンハッタンの摩天楼の嚆矢ですね − の一室が登場していたような気がして、これをとりあげようと思った。大都会の真ん中のビルの中の住まい。いまからマンションを購入しようとする都市生活者の描く理想的な住まい像のひとつには違いない、と考えたわけです。
 開放的でシンプルだけれど、美しく調えられたインテリア。そこに置かれる家具・什器は質のいいものがきちんと選ばれている。おまけに窓越しに見える夜景も美しい。都市居住の醍醐味のひとつ。しかし、それが何だったのかついぞ思い出すことができませんでした(待てよ、それがほんとうに住戸だったのか。だいいちフラット・アイアン・ビルは、今となってはそんな高くない。うーむ。やれやれ)。
 そこで、映画好きの建築家である若い友人 − ちょうど読者の方々と同じくらいの層かも − に聞いてみました、「何がいいと思う?」。すると、間髪を入れずに帰ってきたのが、「そりゃもう、『アメリカン・サイコ』(メアリー・ハロン監督、2000)で決まりでしょう」というご託宣。ま、おしゃれなインテリアだということは聞いていたしね。ただ、タイトルにサイコとあるのが引っかかった。というのは、つい先日たまたま手に取った「バッドタイム」(これもC・ベイル主演)を見て、後味の悪さにちょっと辟易していたのでした。ともかくも、あれほど後味は悪くないという彼の言葉を信じて見ることにしました。
 見てみたら、内容はやっぱりパスしたいようなものでした(あんがい笑ってしまうような場面もあります)。舞台は80年代半ばのニューヨーク、証券会社で働く若きビジネス・エリート − 当時は「ヤッピー」と言っていました − が表層的な完ぺきさを求めるあまり、やがて自分の感情を制御しきれずに猟奇的な連続殺人を犯し続けるようになるという話(どうにも、こうした類いは苦手なのです)。それでも、彼の住む高級マンションのインテリアは、噂にたがわずクールです(ショウルームのようなしつらいは、いまでもあこがれる人がいるんじゃないかな)。
 赤い封蝋がぽたぽた落ちるタイトルバックからしてすでに不気味なのですが、やがて主人公であるクリスチャン・ベイルと彼の仲間たちがはやりのレストラン − ウェイターの料理についての説明を聞いてから食べ始めるようなところ − で食事している光景が映し出されます。会社のゴシップのことやら何やら、気取った様子で話しています。また、彼らは1枚の名刺の個性を競い合って、けっこう真剣に勝ち誇ったり、落ち込んだりもする。
 C・ベイルは肉体を鍛え、肌の手入れや日焼けの色の具合を気にします。そして、ブランド物の洋服や時計に気を配り自慢する一方で、それに感心した相手が何とは無しに触ろうとすることに対してさえ異常なほど嫌悪感を示すのです。スーツは何着もすぐに取りだせるようきちんとハンガーにかけられている − これまたスタイリッシュな映画として評判の高い「ガタカ」の、こちらは近未来の世界を扱ったものでしたが、イーサン・ホークとジュード・ロウの家でも同様でした。そして、ステンレスの大きな冷蔵庫の中には、アイスパックとアイスクリームの他はほとんど入っていない。ヤッピーの生活を揶揄しているのは明らかですね。
 で、インテリアはといえば、白い壁と天井。フローリングの床の中に白いカバーのかかったソファ(だれのデザインだろう?)と20世紀最大の建築家のひとりでモダニストのミース・ファン・デル・ローエの手になるバルセロナ・チェアが2脚。そして、壁のくぼみに、見るための椅子として名高いチャールズ・レニー・マッキントッシュのヒルハウス・ハイバックチェアがひとつオブジェとして置いてある。別の壁には、ロバート・ロンゴのモノクロームの大きな絵が一枚、また別の壁には小振りの絵が何枚も並べてかけられています(外国人は、本当に絵やポスターを飾るのが好きなようですね。そういえば、英国での個展の経験もある日本画家である知人はかつて、「日本人は絵は美術館でみるものと思っているが、欧米では気に入った絵はできれば家でみたいと願っている」と言っていたことを思い出しました)。
 極めてシンプルだけれど、一方ゴージャスでもある。おしゃれだけれど、ほとんど色がなくて生活感がない。先に挙げた「ガタカ」でも同じように、コンクリート打ち放しのがらんとした空間にミースのバルセロナ・チェアのシリーズが置いてあったし、E・ホークがこれもミースのラウンジチェアに座っている場面もあった。
 かつてこういう空間を好んだ時期もありますが、正直に言えば、いまはもう少し住み手との結びつきを感じさせるようなインテリアの方が好きです(例えば、前回見た「かもめ食堂」のような)。
 住宅についての言及も多い編集者の中原洋さんの講演会を聞きに行った友人 −「アメリカン・サイコ」の推薦者です − から、中原さんは「いまの住宅は光と風の扱いがテーマで、そこにはライフ・スタイルがない」というようなことを言っていたと聞いたことがあります。
また聞きだから正しく理解していないかもしれませんが、僕なりに解釈すると、「いまの建築家やクライアントは建築的な美しさや身体的な気持ち良さを享受することに満足していて、そこでどういう生活をするのかにあんまり関心がないのではないか、そこでの生活を楽しむというよりはおしゃれな空間をつくる、あるいはそうした空間に居ることに満足しているのではないか」ということを中原さんは言いたかったのではないかしらんと思ったのでした(違っていたら、ごめんなさい)。ぼくが「アメリカン・サイコ」のインテリアが気にいらないのは、たぶんこれと似たような居心地の悪さを感じるせいじゃないかと思うのです(もちろん、空間そのものを楽しんでなぜ悪い、生活感がないのがどうしていけないのか、といわれたら、全く悪くありませんというよりほかないのですが)。
 ともあれ、インテリアは、住まい手と対峙するものではなくて、住まい手とともにあるもの、生活の舞台であって欲しいと思うのです。むろんインテリアは「こうでなければいけない」というものではないはずです(何といっても、あなたが主役なのですから。そして、あたりまえのようだけれど、外観はそうはいきません。他者に与える影響は断然大きくなる)。
 いずれにせよ、こんなインテリアが好きという思いはあるのに、なかなかあなたのイメージにあった空間をつくりだすことができない時は、映画が役に立つだろうと思います。インテリアはそこで暮らす人物と分かちがたく結びついているはずだし、部分的ではなくて全体的なものだろうと思うのです。だとしたら雑誌よりも映画がふさわしい。そっくりまねすることができなくても、そのテイストや知恵を参考にすればよいはずです。ま、昔バジルやイタリアンパセリが手に入らなかった頃、代わりにただのパセリを使ったりしたことと同じですね。インテリアも、むづかしいことは言わないで、あなた好みのスパイスを振りかけてアレンジしながら楽しめばよいと思います。
 ところで、現代の映画に登場するヒーローのインテリアは何だか生活感を排除し、ヒロインのインテリアはもう少し生活と結びついた空間が多いような気がするのです。どうも男のインテリアと女のインテリアというのがあるようなのですが、どうでしょうか。女性デザイナーにはアイリーン・グレイやシャーロット・ペリアン、そしてアンドレ・プットマンといったクール派がいるのにね(む、みんなフランス人)。ま、この話しは、いつかまたどこかで。
プロフィール
藤本憲太郎
関東学院大学人間環境学部教授
専門は居住環境のデザイン。若年者や高齢者を中心とした単身者の居住環境や映画文学にあらわれる居住環境を中心にひろく人々を取り巻くデザインについて研究。住宅の設計やインテリアデザインなどの実務も行う。

【著書】
「目で見る[住生活]と住まいのデザイン」(共著 建帛社)、「いす・100のかたち」(共訳 読売新聞大阪本社)、「チャールズ&レイ・イームズ」(共訳 読売新聞大阪本社)等
 
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